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Wonderful Golden Week

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モンチ03  

 2021年4月29日、GW初日。

「ついについにこの日がきた!」

 今日から始まる7連休。

(サラリ)社員(ーマン)2年目の中島(なかじま)(けい)()はこの連休を思う存分堪能する為に、絶対に仕事を残さないと心に決め、連休前の会社の激務をヘロヘロになりながらもこなし、ようやく待ちに待ったGWを迎える事が出来た。

「やるぞやるぞ~。絶対クリアしてやるからな~」

 鼻歌でも歌いそうなテンションで据え置き型ゲーム機を用意する圭太。彼はこの大型連休を利用して、楽しみにしていた新作ゲームをクリアしようと意気込んでいる。

 その為の準備は万端だ。7日分の食料(カップラーメン、冷凍チャーハン等)は勿論、お菓子やジュースも大量に買い込んでいる。電気を消し、カーテンで朝日を遮って部屋の中を暗くして雰囲気を作る。

 さあ始まりだ。

 彼等(キャラクター)と共に、長い冒険へ繰り出そう。

 わくわくドキドキしながらゲームソフトをセットし、電源をつけようとしたその時──

──ピンポーンと、無慈悲なインターホンの音が鳴り響いた。

…………………………………………

 電源を入れようとしていた圭太の手がピタッと止まる。

 インターホン、それは誰かしらが来訪を告げる時の合図音だ。しかし、この家に誰かが訪れる予定は無い筈だ。ならば予想されるのは新聞の勧誘か宗教の勧誘か、商品販売の営業か、考えられるのはそんなところだろう。

 普段の彼ならば面倒ながらも素直に対応していただろうが、今日に限っては居留守を決め込む事にした。

 何故かと言えば、嫌な予感がしたから。

 このGWが丸々消えて無くなってしまいそうな、そんな最悪な予感が。

よし」

 自分で納得したように頷くと、圭太は再び電源を入れ──

──ピンポーン、ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピピピピンポーーン!!!

──られなかった!!

「うるせえなぁ!!」

 怒涛のインターホン連打に、無視していた圭太も我慢出来ずに立ち上がり、怒鳴りながらドッドッドッと大きな足音を立てながら玄関に向かう。

 バンッと勢い良くドアを開けると、そこに居たのは満面の笑みを浮かべた──

「あ姉貴

「よっ圭太。元気してた?」

 圭太の2歳上の姉である、中島(ゆう)()だった。

 白のワンピースに、金色のベルト、茶色のハイヒール、大きめのグラサンを掛け、ピンクのショルダーバッグを掛けている姉はどこか旅行に出掛けそうな恰好をしている。いや、その予想は恐らく当たっているだろう。何故なら、夕菜の左側には大きなスーツケースがあるからだ。

 突然の来訪に驚きながらも、圭太は久しぶりに会う姉に当たり障りのない話題を振る。

「おう久しぶり。どっか旅行でも行くのか?」

「そうなのよ! これから友達と沖縄旅行!」

「沖縄今からそりゃいいな。楽しんで来いよ、じゃ」

 GWで沖縄旅行、なんてリア充なんだ。海で勝手にウェイウェイしてくれ、俺はこれから自分の部屋でウェイウェイするから、と会話を切り上げてドアを閉めようとすると、ガンッと夕菜のハイヒールがドアに差し込まれた。

「あのー、まだ何か?」

「それがねー、ちょーーっと圭太にお願いがあるのよ」

 やはりキタ! と圭太は身構える。聞くのがとても嫌だが、彼は仕方なくドアを開けて要件を尋ねた。

「一応聞くけど何?」

「いやさー、私が沖縄旅行に行ってる間、この子達の面倒を見て欲しいのよ」

 と言って、迷惑な姉は背後に隠していた三匹のペットをバーン! と見せる。

 そこには、ペットバッグに入った猫と犬、鳥かごにいるインコがいた。三匹のペットを目にして圭太が顔を引き攣らせていると、夕菜は怒涛の紹介を始めてしまう。

「このイケメンな子がゴールデンレトリバーの五郎で、こっちのセクシーな子がノルウェージャンフォレストキャットのエリザベス。で、このキュートなインコちゃんがピーコよ。みんな賢くて良い子達だから、よろしくね!」

「よろしくねっていやいや待ってくれ。突然来られても困るよ、俺にも予定があるんだからさ!」

「予定って言っても、どうせアンタはゲーム三昧でしょ?」

「うていうか、それなら母さん達に頼めよ、俺じゃなくて!」

「私もそうしようと思ったんだけどさ、母さん達も今日から夫婦水入らずの温泉旅行に行くらしくて、断られちゃったのよね。だから頼れるのは圭太しかいなのよ、ねっお願い!」

「そんな事言われてもな

「あっいけない!? もう飛行機に間に合わなくなっちゃう。このバッグに食料、世話の仕方、お金諸々入ってるからよろしく! じゃあね、お土産買ってくるから!」

「あっおい! 姉貴!」

 圭太は呼び止めるが、夕菜は足を止める事なく去ってしまった。

「おいマジかよ」

 姉が居なくなった廊下を見て呆然とする圭太。昔から夕菜は傍若無人な性格で、圭太も彼女のワガママに散々付き合わされてきた。しかし彼女も働き出し、一人暮らして立派な社会人になり少しは落ち着いたと思っていたが、全然そんな事はなかったようだ。

「でこいつ等どうすんだよ」

 飼い主に置いてかれた三匹の動物達を見下ろしながら、圭太は困り果てる。身内の家族だから流石に知らんぷりは出来ないし、アパートの住人に変な目で見られる前に、部屋に上げてしまうしかないだろう。

はぁぁぁぁぁぁぁ」

 最高のGWを送る予定だったのに、迷惑な姉の所為で前途多難なGWになりそうで、圭太は深いため息を吐いたのだった。

🐶

 アパートの大家に問いかけたら、ペットを飼うのはOKだった。本当は申請書のような物を出さないといけないらしいが、事情を話してみたら一週間だけなら構わないとの事。その変わり、他のアパートの住人には迷惑をかけないようにと注意された。

「でこいつ等はどうするか」

 目の前にいる五郎とエリザベスとピーコを見て、困ったように首を傾げる。五郎とエリザベスは既にペットバッグから出していて、各々寛いでいた。普通飼われている動物は知らない場所に連れて来られると不安で落ち着かないと聞いていたが、全くそんな事は無かった。まるで我が家のようにリラックスしている。性格は飼い主に似ると言われているが、姉の豪胆なところも似てしまったのかもしれない。

 反応が無いピーコは、多分寝ているんだろう。

 それにしてもどうしようと圭太は悩む。このままでは折角のGWがペット達の世話で終わってしまう。それは嫌だなぁと思った圭太はポンッと手を叩いて、

「よし、ご飯だけ出しとけばいいか」

 ナイスアイデアと言わんばかりに夕菜から預かったバッグを物色する。バッグに入っていた説明書を読みながら恐るべき速さでペット達のご飯を用意し、部屋の隅に置いておく。

 ふ~と、額の汗を手の甲で拭った。

「こうしておけば勝手に食べてくれんだろ。さ、ゲームを始めるか」

 これでいいだろ、と圭太はペット達の相手を放棄してゲームを始めようと今度の今度こそゲーム機の電源をつけようとする。

「何この部屋、狭くて暗くて臭くて最悪だわ」

 つけようとするのだが、その時発せられた声に驚愕してピタっと指が止まる。

(え? 何今の、なんか人の声が聞こえた気がしたんだけど)

 不意に聞こえた声に恐怖を覚える。それも、なんだか大人な女性の声だった。ちょっとエロい感じの。

 しかしこの部屋には圭太しか居ない。ちょっとエロい大人な女性はどこにもいない。だから気の所為だろうと再び電源を押そうとしたら、やはり背後から人の声が聞こえてくる。

「せめて部屋を明るくして、換気して欲しいわ」

「ッ!!?」

 バッ! と後ろを振り向く。

「ていうか貴方、凄く冴えない男よね。夕菜の弟だって聞いてたからちょっとは期待してたのに、ガッカリよ」

ノルウェージャンフォレストキャットのエリザベスが人の言葉を発していた。

 口を開けてポカーンとする圭太。これは幻聴だろうか?

 今、猫が喋った気がする。

 にゃおーん、というごく一般的な鳴き声ではなく、ちょっと艶めかしいというかセレブな奥様みたいな人の言葉。

(いやいやいや、ないないない。きっと何かの間違いだろ)

 首をブルブル振って否定する。まさか、猫が喋る訳ないじゃないか。単なる空耳だろう。

 そう信じたかった圭太だったが、人の言葉を話せるのはエリザベスだけでは無かった。

五郎「この部屋何だか臭い! それに何だか狭いし暗いなぁ。なあ圭太、こんなところに居ないで散歩連れてってくれよ! 散歩!」

ピーコ「クサイ! コノヘヤクサイ! ヒェ!」

おいおいおい、犬も鳥も喋ったぞ。どうなってんだ、俺は夢でも見てるのか? イテッ、夢じゃない

 ゴールデンレトリバーの五郎が、固まる圭太の周りをぐるぐるしながらオネダリしてきてばかりか、鳥かごに入っているインコのピーコも人の言葉を喋った。

 インコならワンチャン人の言葉を喋らないことも無いが、犬は絶対無理だろう。

 夢でも見ているんじゃないかと思って圭太は自分の頬を抓ってみるも、現実は一切変わらなかった。

 エリザベスはぶつくさ文句を垂らしているし、五郎は顔をベロベロ舐めて催促してくるし、ピーコは腹減りやがった! とかよく分からない事を叫んでいるし

 いや待てよ、と圭太はふと我に返る。動物達の声が人語として発せられているのかそれとも勝手に認識されているのかは分からないが、まあ言っている言葉は理解出来る。であるならば、果たして一方通行ではなく圭太の言葉を動物達が理解出来るのか、平たく言えば会話出来るのか、という疑問が浮かび上がってくる。

 その疑問を解消すべく、圭太は彼等に話しかけてみた。

「ななぁエリザベス。姉貴の部屋ってここより大きいのか?」

エリザベス「なにお馬鹿な事を言ってるのかしら。夕菜の家は高級マンションよ、こんな安アパートより何倍も大きいわよ。それに華やかで、良い香りもするし」

 エリザベスは通じる。それと地味で臭い安アパートで悪かったなとぼやいた。

「五郎は今何歳?」

五郎「1歳!」

 五郎も通じる。それと五郎はまだ元気な子供らしい。

「ピーコは男の子? それとも女の子?」

ピーコ「メス!!!」

 ピーコもギリギリ通じる。それとピーコは女の子らしい。

(うわぁ俺動物と喋っちゃってるよ)

 夢でなく現実で動物と意思疎通が出来てしまい、何がどうなっているのか戸惑う圭太。ひとまずこれからどうしようと考えて、もう無視して楽しみにしていたゲームを始めよう、と開き直る。人はそれを現実逃避と言う。

 圭太が文字通り現実(リアル)から非現実(ゲーム)に逃避しようとするが、動物達によって阻止されてしまう。

五郎「なー圭太散歩行こうよ散歩ー! つまんないー!」

エリザベス「私もお外に出たいわ。こんな薄暗いところにいたから陽の明かりを浴びてお昼寝がしたいわ」

ピーコ「ソト! ソトデル!」

「あのー、今から用事があるから、少し静かにしていて欲しいんだけど

五郎「やだ! 散歩行く!」

エリザベス「アナタの用事なんて知らないわ。いいから早く出かける準備をしなさい」

ピーコ「オマエニ! ジユウ! ナイ!」

「ああもう分かった分かりましたよ、行くから暴れないでくれ!」

 圭太が動物達に頼んでみるも、彼等は全く言うことを聞かず、実力行使に打ってきた。服を噛んで引っ張ってきたり、爪で引っ掻いてきたり、ディスってきたり。このまま暴れられては堪ったもんではないので、言う通りに散歩する事にした。

(少し遊んだら疲れて大人しくなるだろ)

 ぱっと行ってぱっと帰ってくればいい。それからゲームを始めよう。

 ペット達が人の言葉を喋るのは今は深く考えない事にした。GW前の激務で自分が疲れてそう聞こえているだけかもしれないし。

(全く姉貴の奴面倒な奴等を押し付けてきやがって

 強引な姉を恨みながら、圭太は大きなため息を吐いたのだった。

  🐈

「休日の朝っぱらから公園で散歩なんて何年ぶりだろうな」

 三匹のペットを連れて近くの運動公園を訪れた圭太。

 GWだからか人の数が多い。部活の大会なのかジャージやユニフォームを着た学生集団がランニングしていたり、小さなお子さん連れの家族がレジャーシートを敷いてピクニックを楽しんでいたりする様子を頻繁に見掛ける。

 天気が晴天なのも理由の一つだろう。これだけ雲一つない快晴だったならば皆外に出たくなるものだ。近場の散歩コースで良い場所を知っていたのがこの運動公園だったので来てみたが、違う場所にすればよかったと来て早々に後悔する圭太。

 人混みが苦手だという理由もそうだが、一番の理由は目立ってしまうから。何が目立ってしまうのかといえば、やはりこの子達の存在だろう。

五郎「アハハハハハ! やっぱり散歩は楽しいなー」

エリザベス「う~ん、良い天気ね。お昼寝したくなっちゃうわ」

ピーコ「テンキ、サイコー」

 リードの先ではしゃぎ回る五郎に、圭太の隣を優雅に歩くエリザベスと、圭太の頭にちょこんと乗っているピーコ。

 犬を散歩しているのは分かる。しかし、猫が飼い主の隣をついて行くように散歩している姿は中々見掛けない。ましてや、頭の上にインコを乗せて外を出歩く飼い主なんて皆無だろう。

(うぅぅ見られてる、皆に見られてるよぉ)

 周りから好奇な目で見られているような気がして、背中を小さく丸める圭太。やっぱり散歩なんかせず家でゲームしておけばよかったと早々に後悔する。

 そんな不運な圭太の元に、幸運の女神が現れた。

「あれ、中島君?」

「うぇ!? あ、青山(あおやま)さん!?」

「やっぱり! そうかなーと思ったんだ。人違いじゃくて良かったよ。中島君もワンちゃんの

散歩?」

「まぁそんな感じです」

「へぇ、中島君ってワンちゃん飼ってたんだね」

「いえそれが実はこれこれこう言った事情がありまして

 ハキハキと快活の話す彼女は、圭太が勤める会社の先輩である青山(うみ)。美人で仕事も出来る上に、誰にでも優しい女性で、圭太の会社ではマドンナ的な存在である。恋愛に対して興味もない圭太が、こんな人と付き合えたら幸せだろうな~と妄想するぐらい海は素敵な女性だった。

「へぇお姉さんの。でも中島君、今日初めて会ったのに凄い懐かれてるね。それも(五郎)君だけじゃなくて、(エリザベス)ちゃんにインコ(ピーコ)ちゃんまで」

 ふふふと口元に手を当て朗らかに笑う海を見て、圭太は恥ずかしくなりながらも心の中で先輩可愛いなぁとほっこりする。

「青山さんも散歩ですか」

「うん、この子とね。この運動公園は散歩コースなの、天気が良い日はよく来るんだ」

「へぇ、そうなんですか」

 海の格好はというと、上下長袖のインナーを着こみ、その上に運動用パーカーとパンツのジョギングスタイルで、右手に持つリードの先には小さなチワワがちょこんと座っていた。

「可愛いチワワですね」

「やっぱりそう思う? ポコちゃんって言うんだけね、もう凄く可愛いのよ!」

 自分の飼い犬をべた褒めする海に若干引く圭太だが、確かにこのチワワは可愛いと思った。しかし、ちょっと撫でてみようかと手を伸ばした瞬間ペシッと払い除けられ、チワワの口からトンデモナイ言葉が発せられた。

ポコ「おい兄ちゃん、その汚ぇ手でオレ様に触るんじゃねーよ」

…………………………………………………………………………

ポコ「オレ様のハニーに手を出してみろ、タダじゃおかねーからな。ペッ」

「こらポコちゃん、そんなはしたない事しないの。メ、だよ。ごめんね中島君、これで拭いてね」

「アリガトウゴザイマス」

 渋いおっさん声でメンチを切られた挙句、唾を吐かれながら警告された圭太は、半ば放心状態のまま海から受け取ったハンカチで唾を拭い取る。何だこのチワワ可愛いどころか凶暴犬じゃねーかと心の中で突っ込んだ。

「じゃあこの私達はこのへんで失礼するね。中島君達も散歩楽しんで!」

「はい」

 ポコを連れて去っていく海の背中を眺めながら、圭太は足下の五郎やエリザベスを見下ろしポツリと呟く。

「お前達って結構まともだったんだな

エリザベス「あんな見た目詐欺の野蛮犬と私を一緒にするんじゃないわよ」

五郎「圭太ー早く行こうよー」

ピーコ「グー💤」

 動物にも色んなやつがいるんだなぁとしみじみする圭太であった。

🐓

 無事ペット達との散歩を終えた圭太は、筋肉痛でゲームどころでは無かった。というか、ペット達は圭太に一切の自由を与えてくれなかったのだ。食事にトイレといった基本的なお世話。五郎はずーっと遊びをせがんでくるし、エリザベスは毛並みを整えろと命令してくるし、ピーコはやたらと髪を(ついば)んでくる。時が経つのは早いもので、今日は5月2日。もうGWの半分まできていた。

 本日もペット達のワガママで朝から運動公園に訪れた圭太。しかし今日は、周囲の雰囲気がここ数日と違っているような気がした。

「うわ、本当にいたんだ」

「マジで頭にインコ乗せてるよ。飛んで逃げたりしねーのかな?」

「あの猫ちゃん凄い綺麗、触ってみたいわぁ」

(今日はやたら視線を感じるな

 散歩初日から注目されてはいたが、大体は奇異の目であった。しかし今はどちらかというと好意的な視線ばかりで、圭太はなんだなんだと戦々恐々といった心境である。そんな圭太へ、女子高生っぽい女の子二人が突然話し掛けてきた。

「あ、あのーすいません!」

「は、はい何でしょう」

「一緒に写真撮ってくれませんか!?」

「しゃ、写真? 俺なんかでいいの?」

「勿論です!」

「お願いします!」

 女の子達に写真を頼まれて驚く圭太。彼女達の勢いは凄まじく、あれよあれよとペット達と一緒にパシャパシャと写真を撮る。気が済んでニコニコ顔の女の子達に、圭太は抱いていた疑問を訊ねてみた。

「ちょっと聞いてもいいかな。どうして俺達と写真を撮ろうと思ったの?」

「あれ、知らないんですか? お兄さんめっちゃバズってますよ。トレンドにも乗ってたんですから」

「ほら、これ見て下さい」

 女の子から渡されたスマホ画面を覗いてみると、某有名SNSサイトのツイートに圭太達が散歩している画像がアップされ、いいねやコメント数がとんでもない数字になっていた。因みにハッシュタグには、#頭にインコww、#猫と散歩、#動物に愛された男、とついている。

「うわぁいつの間に

 自分の知らぬ間に写真を撮られ、気付かぬ内に世間でバズっているなんて

 呆然としたままスマホを返す。ペット達と戯れ、ひとしきり楽しんだのか、女の子たちは満足そうに去って行った。が、二人の女の子を皮切りに、圭太達の元へツイートを見た人達がどんどん集まってくる。それらに対応していると、ついにはテレビ局を引き連れた美人アナウンサーまでやって来て、インタビューまでさせられてしまった。

 全てを捌ききった圭太達は疲れ果ててしまい、木陰の下で並んで寝転び休憩を取っていた。

「つっかれた~、こんなに注目されたのって人生で初めてかもしれない。それにしてもまさか自分がバズってたなんてなぁ最終的にインタービューまでされちゃうし」

五郎「お腹減ったなぁ

エリザベス「ぜぇはぁあのガキんちょ共よくも私の美しい毛並みを撫で繰り回したわね。後で覚えときなさいよ」

ピーコ「ピョエー

「重い

 元気しか取り柄がない五郎は圭太の右腕を枕にしてぐったりしていて、エリザベスはお腹の上に乗って息切れしつつ恨み節を吐いており、ピーコはおでこの上で羽休めをしている。三匹に乗っかられて苦しい圭太は彼等を退かそうとするのだが、ペット達は意地でもその場所をキープし続けていた。

(こいつ等との共同生活も、もう慣れたもんだよなぁ。初めはしっちゃかめっちゃかだったけど

 犬と猫と鳥。それぞれのご飯の用意に、トイレの後始末や遊び相手。五郎は兎に角騒ぐし、エリザベスは何度も毛づくろいを要求してきて、一番大人しそうに見えるピーコも全然落ち着かず飛び回っている。

 何をやるにしても初めての事で、全部が大変だった。

 けど徐々に慣れてきて──姉の夕菜が用意してくれた物や手作り説明書のお蔭でもあるけど──一番の要因は彼等と言葉が通じる事だろう。

 ペット達がやって欲しい事が分かるから、今まで一度も飼ったことがない素人の圭太でもそれなりにお世話が出来たのだ。もし言葉が伝わらなかったら、今頃圭太は両親に泣きついていたと思う。それかペット達を放っておいてゲームに没頭していただろう。

(めんどくさいけど、可愛いところもあるよな。特にこうして甘えてくる時とか)

 お腹の上で丸まっているエリザベスを撫でながら、ふと思った。

 ペットを飼っている人は自分のペットを世界一可愛いと思って接していて、それを圭太は「え~そんなに~?」と一歩引いた目で見ていたが、いざペット達に触れてみると少しは共感できる気がしたのだ。

 と、そんな風に耽っている時だった。

 すぐ近くで、幼い男の子がぐずりだした。

「うぇ~ん、うぇ~ん」

「ほらたっくん、また買ってあげるから泣かないの」

「やだー! あれじゃないとだめなのー!」

 男の子──名前はたっくん──がわんわん泣いていて、母親が一生懸命あやしていた。話の内容を横から聞いていると、どうやらたっくんが大切にしている人形を落としてしまったらしい。この広い運動公園で見つけるのは中々難しいだろう。

 拾ってくれた人が管理棟に届けていてくれればいいのだが、今のところそれも望み薄といったみたいだ。

エリザベス「もううるさいわね~、人が折角気持ちよく寝てたのに。ちょっと圭太、あんた何とかしてきなさいよ」

「そんな唐突に無茶ぶりしないでくれよ

エリザベス「五郎とピーコならきっと見つけられるわ。ねえ二人とも、出来るわよね?」

五郎「う~ん、多分できるよ~」

ピーコ「ヨユウ、ヨユウ」

 三匹がそう言うならと、圭太は未だにダダをこねているたっくんと母親に声をかける。

「あの~すいません」

「えっ、何でしょうか」

「大体の事情は聞いていました。それでなんですけど、もしかしたら落し物を見つけられるかもしれませんので、特徴等を教えて貰えませんか?」

「あの、いいんですか?」

 迷惑ではないでしょうか。子供のワガママなので大丈夫ですよ。

 そう申し訳なさそうに断る母親に、圭太は大丈夫ですよと柔らかな笑みを浮かべて、

「散歩のついでですから。十分か十五分ぐらいで戻って来るので、少しの間だけ待ってて頂けませんか」

「はい。あのありがとうございます」

「いえいえ。という事でエリザベス、俺達が戻ってくるまでこの子の相手を頼んだぞ」

エリザベス「はいぃぃ!? なによそれ、聞いてないわよ!」

 キーキー鳴いて抗議してくるエリザベスの耳元に顔を寄せて、圭太はこしょこしょと小声で説得を開始する。

「元はと言えばエリザベスが言ったんじゃないか。子供の面倒を見てくれるぐらい良いだろ? 夕飯は奮発しといてやるから。な、いいだろ」

エリザベス「全くしょうがないわねぇ。ほら、早く行ってきなさいよ」

(現金な猫め

 手の平を返すのが早いエリザベスをジト目で睨んでいると、彼女はそしらぬ顔でたっくんに甘えに行った。説得の最中、五郎がたっくんの匂いを覚えてくれていたので、これでいつでも探しに行ける。

「じゃあ五郎にピーコ、行くとしますか」

五郎「任せて」

ピーコ「オケ!」

 五郎とピーコに声を掛け、最後に母親へ「それじゃあ」と会釈をしてから圭太達は探し物を見つけに向かう。

「わー! この猫ちゃんふわふわだー!」

エリザベス「ちょっと、あんまり乱暴に撫でないでよ!」

 エリザベスがクタクタになる前に帰って来ようと思う圭太だった。

👨

五郎「クンクンクン、こっちだよ圭太! 近くにあるよ」

「すごいな五郎、かっこいいぞ」

五郎「えっそう? えへへへへ」

 頭を撫でながら褒めると、五郎は分かりやすくデレデレに喜んだ。

 実際、五郎の鼻は優秀だった。地面の匂いを嗅ぎ取りながら迷いなくドンドン進み、もう落し物がある場所まで辿り着こうとしている。正直言うと五郎が見つけられるかは半信半疑だった。エリザベスが五郎なら出来ると言っていたから行動は起こしたものの、まさか本当に見つけてしまうとは恐れ入った。訓練された警察犬ならまだしも、五郎は普通の飼い犬である。圭太にしたら凄いとしか言いようがない。

 因みにピーコには空から捜索をして貰っている。圭太達の見落としがないかチェックしているのだ。

五郎「う~ん、この辺にあると思うんだけどなー」

ピーコ「コレダ、コレダ!」

 ピーコが空から降りてきて、ベンチの横に落ちてあった人形の上に止まる。近づいて人形を拾い確認してみると、たっくんから聞いていた特徴と一致していた。たっくんが落とした人形で間違いないだろう。

「でかした! 二人とも偉いぞ」

五郎「まあね!」

ピーコ「ラクショウ、ラクショウ」

 圭太が五郎とピーコの頭を撫でると、二匹は気持ちよさそうに目を細める。

 人形を探し当てた彼等がたっくんの元に戻ると、エリザベスが疲れ果てていた。彼女を救うべく、圭太はたっくんの目の前に人形を差し出す。

「はいたっくん、人形見つかったよ」

「本当だ! わぁありがとう!」

エリザベス「うべ」

 抱っこしていたエリザベスをほっぽりだして人形に飛びつくたっくん。圭太がよく頑張ったよと不機嫌そうなエリザベスを(なだ)めていると、母親から何度もお礼を言われる。

 それから少し話して、たっくんと母親と別れることになった。

「ばいばーい!」

「本当にありがとうございました」

 大きく手を振るたっくんに、深く頭を下げる母親。二人は手を繋いで仲良く去っていく。

「三人ともお疲れ。帰ってご飯にしようか」

エリザベス「お昼も豪華にしなさいよ。勿論夕ご飯もね」

五郎「お腹減った~。早く帰ってご飯食べようよ」

ピーコ「ハラヘッタ、ハラヘッタ」

「分かったよ。んじゃ帰るとしますか」

 それぞれがお決まりの場所につき、一人と三匹は帰路につく。

 そんな彼等の誇らしげな後ろ姿を眺めながら、圭太の会社の先輩である青山海は嬉しそうに口を開いた。

「ふ~ん、かっこいいところあるじゃん」

ポコ「まっ、オレ様ほどじゃねえけどな」

🐶

 五月四日、朝。

 今日も散歩をしようと圭太達が運動公園に向かって歩いている途中、後ろから「泥棒ーーー!」と甲高い女性の叫びが聞こえてきた。

 その大声にビクッ! と驚いていると、全身黒ずくめの男が圭太の横を物凄い速さで通り抜けていく。その男の右手にはピンク色の鞄が抱えられていた。恐らく後ろで倒れているおばあさんの持ち物だろう。

 突然ひったくりに出くわした圭太の思考は止まっていた。

 ひったくりを追う? 警察に連絡する? それともおばあさんの介抱をする? 何をやるべきなのか分からず戸惑っている間に、優秀なペット達は既に動き出していた。

エリザベス「五郎、あの不届き者を捕まえなさい!」

五郎「任せて!」

 エリザベスが指示を出すと、五郎はヒュンと風のように走っていく。全力で駆ける五郎を見て「()っや」と呆然としながら呟いていると、エリザベスが足に頭突きしてきた。

エリザベス「なにボケっとしてるのよ、アンタも追いかけなさい!」

「は、はい!」

 (エリザベス)に尻を叩かれて、圭太は急いで五郎を追いかける。すると、ひったくり犯に追いついた五郎が足に噛みついていた。

「痛ててて! 何だこの犬!? こら離せ!」

五郎「絶対離さないぞー」

「離せって言ってんだよ!」

五郎「うわっ!」

 ひったくり犯が強引に振りほどくと、五郎は壁に激突してしまう。その光景を見ていた圭太の頭は爆発し、叫びながらタックルした。

うち(・・)の五郎になにしてくれてんじゃボケーーーーー!!」

「ぐへ!」

 圭太がひったくり犯に全力で体当たりすると、勢い余ってもみくちゃになりながら二人で倒れ込む。当たりどころが良かったのか悪かったのか、ひったくり犯は目を回して気絶していた。自分の下でのびているひったくり犯を目にしながら、自分の取った行動に心底驚いていた。

(うわぁひったくり犯にタックルするとか、俺そんなキャラじゃないのに

 思い描いていた予定では、ひったくり犯の逃げ道を塞ぐとか邪魔をするとかだったが、五郎が乱暴されたのを見た瞬間頭が真っ白になって、気付いたらひったくり犯と一緒に倒れていた。彼は気付いていないようだが、それだけ五郎達の存在が圭太の中で大きくなっているという事だった。

「そうだ五郎、大丈夫か!?」

五郎「うん、全然平気!」

「はぁぁぁ良かったぁ」

 五郎が無事で安堵していると、後ろからバタバタと足音が聞こえてくる。

ピーコ「コッチ、コッチ」

「小鳥さん、ご協力ありがとうございます!」

 ピーコに誘導されて一人の警察官がやってきた。警察官はこちらに素早く近寄ってくると、気絶しているひったくり犯の手首にガシッと手錠をかけた。

 うわー生の現行犯逮捕だーとその様子をボケーっと眺めていると、頭の上にピーコが降りてくる。

ピーコ「オツカレ、オツカレ」

「ああ、ピーコもお疲れ様」

二人でねぎらい合っていると、警察官が事情聴取を求めてきたので、圭太はこれまでの経緯を説明し、警察官からも話を聞いた。

 どうやらこのひったくり犯は、ここ最近朝方に現れるようになった常習犯だったらしい。パトロールしていたところ、突然やってきたインコに「ワルモノ、コッチ」と言われついて行ったら、倒れていた圭太とひったくり犯を発見したそうだ。

「犯人確保のご協力ありがとうございました!」

「本当にありがとねぇ」

 警察官からは後日感謝状を贈るので警察署に訪れて欲しいと言われ、おばあさんには何度もお礼を言われた後、動物園のチケットを二枚貰った。因みにはじめは現金をお礼にと言われたのだが、流石にそれはと遠慮したら最終的にチケットになったのだ。

 そのうち仲間の警察官がパトカーに乗ってやって来て、ひったくり犯とおばあさんを乗せて去って行った。遠くなっていくパトカーを眺めながら圭太が大きなため息を吐く。

「はぁ朝から凄く疲れたな。どうする、帰るか?」

 圭太が「もう疲れたから帰ろうかぁ」的な雰囲気を(かも)し出しながらペット達に尋ねると、彼等は何を言っているんだと言わんばかりの表情で答える。

五郎「早く行こうよ! 早く早く!」

エリザベス「これしきの事でだらしないわねぇ。ちんたらしてないでさっさと行くわよ」

ピーコ「ケイタ、ヒヨワ。サッサトアルケ」

分かりましたよ、行きますよ」

 元気な三匹に促され、圭太達は運動公園に向かったのだった。

🐈

 散歩を終え、公園のベンチで一休みしている時だった。圭太の目の前に、会社の先輩である青山海が慌てた様子で現れた。

「ごめん中島君、うちのポコちゃん見なかった?」

「せ、せせせ先輩!?」

 突然会社のマドンナに話し掛けられビックリする圭太だったが、困っている海を見て落ち着きを取り戻した。

「ポコちゃんって先輩が飼っているチワワですよねすみません、見てないです」

「そうだよね」

「いなくなっちゃったんですか?」

「そうなの。よく挨拶する犬友のおばちゃんと話し込んでいたらいつの間にかいなくなってて。ポコちゃん、お気に入りの(女の子)を見つけるとふらふらついて行っちゃうんだよね」

「そそうなんですか」

ただのプレイボーイじゃねぇかと心の中で突っ込む圭太。決して口には出していないが、顔は少しだけ引き攣っている。そんな圭太は「そうだ」と何か閃いたように口を開くと、横になっている五郎に小声で問いかけた。

「なぁ五郎、昨日人形を探し当てたようにポコちゃんを見つけられないか?」

五郎「う~ん、多分出来るよ」

「本当か!? じゃあ頼むよ。エリザベスとピーコも協力してくれ」

エリザベス「も~仕方ないわねぇ。今回だけよ」

ピーコ「ショウガネエナ」

「皆、ありがとう!」

 三匹の協力を得た圭太は、海にポコ探しを手伝うと申し出た。

「青山さん、俺達もポコちゃんを探すの手伝います」

「えそんな悪いよ」

「大丈夫です! この後の予定とかも特にないんで!」

「そそ、そう? じゃあお願いしてもいいかな?」

「はい、喜んで!」

 そうと決まればと、圭太達は早速ポコ捜索に向かう。

 圭太と五郎、海とエリザベスの二手に分かれて捜索する事になった。ポコを見つけた後の連絡手段として、圭太は海と電話番号を交換した。その際、彼は鼻の下を伸ばしながら(これが会社のマドンナ、青山さんの電話番号か!)と密かに興奮していたが、そんな気持ち悪い姿をエリザベスが汚物を見る目で見ていたのを圭太は知らない。

五郎「見つけたよ圭太!」

「でかした!」

 五郎の視線を辿ると、目の前にある休憩所の二階バルコニーで、目が♡になっているポコが女の子のチワワに言い寄っていた。

ポコ「なぁなぁカワイコちゃーん、オレ様と一緒にランデブーしようぜー」

チワワ♀「ワタシ、そんなに軽い女じゃないの。それにアナタはタイプじゃないのよ。もう付きまとわないでくれるかしら」

ポコ「そんなつれない事言わないでさー、一緒に遊ぼうぜー!」

 そっけない対応をする女の子のチワワにしびれを切らしたポコがダイブして飛び付くが、ひょろりとかわされてしまう。その勢いのままに、ポコはバルコニーから落ちてしまった。

ポコ「あ

「あ、じゃねーよ馬鹿犬!」

 ポコがジャンプした時には、圭太は既に駆けだしていた。恐らく人生の中で一番疾く走れた圭太は、なんとか間に合って落ちてくるポコをスライディングキャッチする。背中やお尻やら足裏やら身体の後ろ側がヒリヒリして痛いが、腕の中にいるポコが無事だったのでホッと安堵の息を吐いた。

「はぁ、間に合って良かった」

ポコ「サンキューブラザー、助かったぜ」

「何がブラザーだ、調子いいこと言いやがって。大体お前がなぁ──

「中島君!」

 ポコと言い合っていると、海とエリザベス、五郎とピーコが集まってくる。

「中島君、大丈夫!? 怪我してない!?」

 凄く心配してくる海に圭太は「平気ですよ」とやせ我慢しながら立ち上がり、抱えているポコを預ける。

「はい、こいつも無事です」

「ありがとう。中島君、本当にありがとね。もーポコちゃん、心配させるような事しちゃメでしょ! 今日はおやつ抜きですからね」

ポコ「すまねぇマイハニー、だけどおやつ抜きは勘弁してくれねえか」

 海がポコを叱っていると、五郎とエリザベスとピーコが圭太の下に集まり、珍しく褒めちぎってきた。

エリザベス「圭太にしては頑張ったんじゃない。少しだけ見直してあげてもいいわよ」

五郎「圭太ってあんなに早く走れたんだね! 今度競争しようよ!」

ピーコ「イカシテタゼ」

「お前ら

 ペット達からあたたかい言葉を受けてジーンとする圭太は、ふっと自分の手の平を見つめる。

 朝のひったくり犯を捕まえた時もそうだったが、自分がこんなに誰かの為に動けるとは思ってもみなかった。きっと今までの圭太だったならば、何も行動することなく黙って見過ごしていただろう。だが今日の圭太は、自分でも驚いてしまうくらい身体が勝手に動いていた。それは恐らく、ペット(彼等)達の影響が大きい筈だ。

 圭太は三匹の顔を見回しながら、こいつ等と出会えて良かったと満面の笑顔を浮かべる。

「中島君、改めて本当にありがとう。ポコちゃんを探してくれたのもそうだけど、必死に助けようとしてくれて。それでね、お礼がしたいと思うんだけど

「えそんな、大丈夫ですよ! 気を使って貰わなくて!」

 海から誘われたにも関わらず、ヘタレな圭太は手をぶんぶん振って断る。折角のチャンスを棒に振るおうとしているおバカなご主人に、エリザベスはやれやれとため息を吐いた後、圭太の足を踏んで発破をかける。

エリザベス「女に恥かかせるんじゃないわよ」

「エリザベス

エリザベス「ほら、丁度いいところにおばあさんから貰ったチケットがあるでしょ? あれを渡してデートに誘いなさい」

「チケット

 圭太はポケットに手を入れて、ひったくり犯から助けたおばあさんから譲り受けた動物園のチケットを握り締める。しかし、そこから手が動かない。自分なんかが会社のマドンナである海をデートに誘ってもいいのだろうか。おこがましくないだろうか。

 そんな葛藤をしている圭太に、ペット達は勇気を与えた。

五郎「頑張れ圭太!」

エリザベス「男を見せなさい」

ピーコ「オマエナラヤレル!」

(皆ありがとう!)

 彼等から勇気を貰った圭太は、意を決してポケットからチケットを取り出した。

「あ、あの青山さん。もし良かったら、この後一緒に動物園に行って頂けませんか!」

 勢いのある圭太の誘いに最初はキョトンとしたものの、海は優しく微笑んで首を縦に振った。

「私でよければ喜んで」

「あ、ありがとうございます」

 デートの誘いが上手くいき、それを見ていた五郎とエリザベスとピーコは顔を見合わせてニシシと笑いハイタッチを交わしたのだった。

🐓

「おーい、わが弟よー、心優しいお姉様が帰ってきたぞー」

──その日の夜。

 沖縄旅行から帰ってきた圭太の姉の夕菜がアパートに訪れた。しかしインターホンを何度鳴らしても全く出てくる様子は見られない。「どっかに出掛けてるのか?」と思いながらドアノブを捻ると、ガチャリと開いてしまった。

「鍵を開けとくとは不用心な弟め」

 と言いながらも勝手に圭太の部屋に入る夕菜。電気をつけると、彼女は一瞬目を見開いたが、すぐに優しい笑顔を浮かべた。

「いつの間にか仲良くなっちゃって、妬けちゃうねぇ」

 彼女の視線の先には、圭太と五郎とエリザベスとピーコがくっ付きながら、川の字になって幸せそうに眠っている。よっぽど疲れているのだろう、電気をつけても物音を立てても全く起きる気配がない。

まるで家族みたいね、とニシシと笑う夕菜は、起こしちゃ悪いかと圭太達に毛布を掛け、静かにその場を後にした。

👨

 5月6日、GW最終日。

 身体にかかる重みで圭太が目を覚ますと、何故か夕菜が自分の部屋で優雅にコーヒーを飲んでいた。

「あれ姉貴か? 帰ってきてたのか、おはよう」

 まだ寝ぼけ気味の圭太に、夕菜もおはようと返す。

「どう? その子たちとのGWは楽しめた?」

 と、夕菜が問いかけてくるので、圭太は自分の上でぐーすか寝ているペット達を見てニシシと笑いながらこう答えたのだった。

「ああ、最高のGWだった」